博物館が出来るまで

日本万華鏡博物館 へのアプローチ

 

 ’12年9月に移設オープンする日本万華鏡博物館は埼玉県川口市幸町2-1-18-101にあります。東京駅から京浜東北線に乗り、赤羽駅を出ると荒川にさしかかり、右手の窓に目をやると、東京スカイツリーが望めます。快速電車で25分(普通31分)赤羽駅の隣り、川口駅で降りてください。改札口を出たら右手、東口の 「そごう」デパートの方へ歩いて行きます。「そごう」の手前にある下りエスカレーターで降り、そのまま前方に進みます。右手に富士そばを見つけたら、そこを右に曲がってください。進むと左にスーパーマーケット「 イイダ 」があり、さらに「7イレブン」の先を左に曲がって信号まで進んでください。信号(幸町小学校南)を渡った、右にあるマンションの1階が、日本万華鏡博物館です。駅から歩いて5分ほどです。

 

予約優先の博物館です!

 

 博物館の開館は午前10時からですが、自分の行きたい日時を予約してください。毎正時ごとに予約できます。博物館は見るコースと、作るコースがあり、共に館長による解説付きです。見るコースは万華鏡の歴史と仕組みを学び、19世紀の100年以上たった万華鏡を覗き、20世紀の懐かしいおもちゃの万華鏡を見て、21世紀の輝くように美しい万華鏡を見ます。3世紀に渡る万華鏡の歴史を覗いて見てください。所要時間は40分ほどです。料金は1000円。

 作るコースは、所要時間60分で万華鏡を手作りして楽しめます。2500円から3000円のキットを数種類、用意してありまので、自分の好きなキットを選ぶことができます。万華鏡は鏡の組み方によって、映像が大きく変わってきます。また、上級キット6000円から8000円の本格的な万華鏡キットもあります。ラスト スタートは、午後6時です。万華鏡を作り、不思議な映像を楽しむために予約優先になります。なお日曜、祝日は予約のみの開館になります。

 

学んで作って見る、博物館です。

 

 実際に万華鏡を手作りしてみると、とっても簡単に作れることがわかります。万華鏡の素晴らしいところのひとつは、誰もが世界でたったひとつの、自分だけの万華鏡を作れることです。ひとつ作ると、万華鏡のシステムがよくわかり、覗いた時に、この万華鏡は何枚の鏡を組んでいるのか、類推がしやすくなります。万華鏡は見ると同時に作ると、その楽しさが何倍にも膨らんできます。だから、学んで作って見る博物館なのです。もちろん、予約なしで来られても、その時間の予約がなければ、すぐに入っていただきますが、すでに予約がある場合は、誠に申し訳ありませんが、1時間待つこともありますのでご注意ください。入館人数は、最大で10名。1人でもOKです。

 

90年1月、アートフルな万華鏡に出会う!

 

 日本万華鏡博物館は、日本一の万華鏡コレクターである館長 大熊進一のプライベイトミュージアムです。1990年1月にハワイのマウイ島で出会ったのが最初でした。地球上最大の生きものであるクジラを見に行った時のことです。アート ブティックで、先端に5Cmほどの円盤が2枚つき、長さ20Cmの真鍮製の円筒を見つけました。でもそれが何かは分からず、お店の人に聞いてみると、まずは覗いてみろ と渡されました。

 それは小学校で作って覗いた万華鏡とは全く違っていました。不思議な幾何学文様をカシャカシャと見ていたものではなく、円盤を回すたび、輝くような光の色に目を奪われたのです。万華鏡だ! とすぐに気づいたのですが、なぜこんなに綺麗になったのだろう? と疑問がわいてきました。しかし疑問より、その不思議な魅力が勝ってしまい、気がついたらもう購入していました。これがコレクション第1号になったのです。

 真鍮の円筒の中に3枚の鏡を正3角形に組んであり、それを覗いた映像が上の写真です。鏡が反転する連続映像がこんなに綺麗だとは、思ってもみませんでした。しかし万華鏡の不思議はこれだけではありません。なんと2枚の鏡をVの字に組んで、開いているところを黒くすると、なんと映像は丸く花が開いたように見えるのです。しかも2ミラーの万華鏡が世界最初の万華鏡だ、というのです。えっ? 世界最初の万華鏡? 確かに、どんなものにも最初はあるのだろうけれど、それはどこで生まれたのだろう? 「万華鏡」という字から連想するに、中国で生まれたか、日本発祥なのだろうと思っていたのだが……。まてよ、世界初というのだから、それがいつのことかも分かっているのだろうか? 万華鏡の謎は広がるばかり!

 

万華鏡はスコットランドで生まれた!

 

 百科事典 を紐解き、万華鏡の項を読むと「1816年スコットランドの物理学者ブリュースターDavid Brewster(1781~1868)が発明したという」と書かれています。えっ、スコットランド! ブリュースター! スコットランドがロンドンの北にある英連邦に属しているぐらい知っているけれど、ブリュースターって誰? またも百科事典の助けを借りようとしたが、ブリュスター個人では載っていない! もしかしたらブルースターで載っているかと思い、引いてみると「ブルースターの法則」で載っていました。ちなみに事典は、平凡社大百科事典です。それによると、法則については理解不能な言葉が続くので飛ばし、この反射による偏光の法則や複屈折の研究は有名で、また、万華鏡の発明、多辺体レンズの灯台の照明灯への応用、などでも知られる、と。万華鏡は1816年、スコットランドの物理学者ブリュースターによって、科学から生まれたのです。中国でも日本でもない、スコットランドなのです。しかし、とても謎が解けたとはいえない。考えてみても?ばかりなので、万華鏡を覗いて見ると、手元には昔懐かしい正3角形の反射ばかりでなく、2等辺3角形による複雑な反射をする万華鏡や、2ミラーの単純だが、美しい円形映像を見せてくれる万華鏡などが、たくさん集まってきました。

 そうだ、スコットランドへ行こう! 万華鏡が未知の国へと誘ってくれている。大学時代、探検部に所属し、洞窟探検や山登り、無人島生活、パプアニューギニア遠征等など、未知なるものは大好物です。26~27歳の時は、パキスタンのカラチをスタートし、アフガニスタン、イラン、トルコ、イラク、シリア、ヨルダン、エジプトからヨーロッパへ、その最西であるイングランドまで歩いた身です。そんな探検魂を万華鏡が呼び起こしてくれたのです。そうだ、スコットランドへ行こう!

 

マジカル ミステリー カレイド ツアー

 

 1998年5月、48歳の万華鏡探検家はエジンバラへ向かいました。ブリュースターは1781年12月11日にエジンバラから南へバスで90分、ジェドバラという小さな町で生まれています。12歳で聖職者たるべく、エジンバラ大学へ入学したが、坊主と折り合いが悪かったのか、物理学(光学)へ進み、灯台の光をより遠くへ届かせる研究に携わっています。時代は大きく動き、地球上、船が行き交い始めた頃です。そして1816年、ブリュースター35歳の時に万華鏡を発明します。万華鏡はあっという間にヨーロッパ中に広まり、中には真似をして作られたものもたくさんあったとか。

 ジェドバラの生家跡には病院が建っていました。数人に話を聞いたのですが、ブリュースターを知っている人はいませんでした。前日、エジンバラ大学へ行き、ブリュースターの銅像を探し歩き、学生たちに尋ねても???でした……。ジェドバラ近くのメルローズという町で、ブリュースターの家を探しましたが、やはり知っている人がいない。ようやくたどり着いたのが、町を見渡せるちょっとした高台に建つている石造りの立派な家でした。1868年ブリュースターはこの家で亡くなっています。家の前には小川が流れ、庭には真っ赤なツツジが咲き乱れ、石の壁には緑の蔦が絡んでいます。気持ちのいいスコットランドの風につつまれています。ブリュースターさん、日本から万華鏡コレクターがやって来ましたよ!

 ちなみに万華鏡を英語 では、KALEI-DOSCOPE カレイドスコープ(発音はカライドスコープ)といい、ギリシャ語のKALOS カロス(美しい)、EIDOS エイドス(形)、SCOPE スコープ(見る)を合体させた造語で、ブリュースターの考案です。 では「万華鏡」という言葉はどこから生まれたのだろう? 20世紀の始まり(明治30年代)中国からたくさんおもちゃが日本に入ってきています。中国語で万華鏡のことを「万華筒 ワンホァトン」と言い、当時、日本では「百色眼鏡」と呼んでおり、筒と鏡の字が入れ替わり「万華鏡」となったのだろうと推測できます。読み方は「ばんかきょう」で、110年前頃から万華鏡という呼び方が広がっていきます。

 

世界一小さく、日本一楽しい博物館

 

 スコットランドへ向かう2年前、万華鏡大好き人間が集まって「日本万華鏡俱楽部」を設立しました。たった4人でしたが……。おもちゃの万華鏡は100%の認知度でしたが、アートのように美しい万華鏡を知っている人は、ほとんどいませんでした。なんとかこの魅力を知ってもらおうと、博物館や美術館へ、「万華鏡展」の開催を呼びかけるための団体でした。しかし日本の経済状況は下降への道をまっしぐら。新しい企画展を開く余裕はありませんでした。スコットランドを旅している時に、ブリュースターが発明した万華鏡をもっと知ってもらいたい、という気持ちが大きくなっていきました。

 よし、自前でやろう。当然大きくなんかできない。小さくして、本当に万華鏡を楽しんでもらうにはどうしたらいいだろう? 思い浮かんだのが、プライベイトのミニミニミュージアム構想です。小生の企画会社、株式会社ベアーズは渋谷駅から歩いて10分。8畳、6畳、6畳のマンションの一室にあり、ここで万華鏡を手作りしてもらい、不思議な万華鏡を見てもらう。そうだ、万華鏡の歴史と仕組みの話もして、万華鏡をトータルに楽しめる博物館にしよう。いつも会社にいるわけではないので、予約をしてもらおう。1回の定員を4~5人にし、1回を60分ぐらいで終わるようにし、費用も作るキット代金だけ、入館料は取らないことにしました。これが世界一小さく、日本一楽しい博物館構想です。

 そして、日本製の万華鏡をたくさん集めよう。90年の1月からコレクションし始めて、1年に100本ほどのペースで、900本集まったが、アメリカ製のアートフルな物や、巨大スーパーマーケットで見つけたおもちゃの万華鏡、日本製の最近のおもちゃの万華鏡などが大半で、意外と日本の古い万華鏡が見つからない。1816年に誕生した万華鏡は、あっという間に世界中を駆けめぐり、鎖国をしている日本では、1819年大阪で見ているという記述が残っています。しかし19世紀の万華鏡は日本ではなかなか見つからない。20世紀始めの中国のおもちゃの万華鏡も見つからない。昭和の初めや、戦前、戦後の万華鏡も行方不明。日本の万華鏡は紙製が多く、中にはガラスの鏡なので、割れたり、壊れてしまったのが多いのであろう。不幸なことに、日本の20世紀は戦争の世紀でもあります。物が無くなるということは、その物が伝えていた文化が無くなるということなのです。

 日本万華鏡博物館のやるべきことも固まってきました。万華鏡200年の歴史を伝え、日本の万華鏡文化をしっかり残していかなければならない。でもまず楽しいことが一番です。楽しくなければ万華鏡ではない。1998年9月、万華鏡を学んで、万華鏡を作って、万華鏡を見る博物館がスタートしました。日本で初めての万華鏡博物館です。

 

?と!のあふれる博物館

 

 開館当時、日本初ということもあって、9月~12月の間に新聞、テレビ、ラジオなど50社以上のメディアが取材に来てくれました。そのかいあってか、小学生から91歳のお爺いさん、仲良しお婆ちゃんグループ、お母さん仲間、若いカップル、修学旅行の中学生、高校生の校外学習として、たくさん来館してもらいました。夏休みには親子での予約が殺到し、キャンセル待ちになることも。また60代の方が小学校の同窓会を兼ねて、日本各地から万華鏡作りに来てくれたり、北海道、沖縄はもとより、アメリカ、ヨーロッパ、最近は韓国、台湾、中国などアジア勢もみえています。しかし、2011年3月11日を境に情勢は一変しました。3月、4月は電話が壊れてしまったのでは? と思えるほど電話が鳴らなくなり、来館者も一気に減少しました。地震、津波、原発は、一人一人に生き方を含めて、さぁ、これからどうするのだ? という問いかけをしてきました。振り返ってみれば、万華鏡をコレクションして22年、前を見ると、男性の平均寿命の80歳まで、もう20年を切ってしまったのだ、というポジションにいます。ならば、とことん万華鏡に寄り添ってみよう、と考えました。マンションの一室にある小さな日本万華鏡博物館から、同じく世界一小さいけれど、万華鏡のためだけのスペースを確保して、渋谷から川口市への移設をきめたのです。

 埼玉県川口市幸町2ー1は、小生が生まれた場所です。つまり生家のあった場所で、そこにマンションを建設することになりました。その1階に約3m×10mのスペースを取り、世界一小さく、世界唯一の「日本万華鏡博物館」を作ることにしたのです。1816年の万華鏡誕生からもうすぐ200年、コレクションも1900点を越えました。かつて、万華鏡をアートへと大変身させた立役者、コージー ベーカーお婆ちゃんの自宅は、首都ワシントンの近くメリーランド州にあり、世界最高の万華鏡博物館でした。1970~80年代、ガラス作家に万華鏡作りを呼びかけたコージーさんは、また世界最高の万華鏡コレクターでもありました。一体いくつの万華鏡があるか、本人も首を傾げるほどの数でした。居間にはアンティークの万華鏡が並び、キッチンにも、バスルーム、トイレ、ベッドルームにも万華鏡がたくさん置かれていました。その名のとおり、コージーな部屋いっぱいの家でした。残念なことにコージーさんは2010年秋、亡くなりました。さらに残念なことに、その万華鏡の家も無くなってしまったようです。

 小生の日本万華鏡博物館は、コージーさんのものには足元にも及びませんが、200年の万華鏡の歴史を伝える物も集まっています。おもちゃとしてアメリカへ輸出されていた万華鏡も呼び戻しました。サイエンス アートのとても美しい万華鏡もコレクションしました。それこそ、世界にひとつしかない、小生の企画会社(株)ベアーズの、熊のマークをモチーフにした万華鏡も、万華鏡作家の皆さんにお願いして一点物の万華鏡を作ってもらっています。

 渋谷に世界一小さく、日本初の万華鏡博物館が誕生してから15年、2012年8月、日本万華鏡博物館は、“キューポラのある街”埼玉県川口市幸町2ー1ー18ー101へ移設します。万華鏡の疑問 ? を探険し、感動 ! を体験する博物館を作っていくことが、これからの小生の生き方になるはずです。

 

『万華鏡博物館』

 日本万華鏡博物館開館10年の歴史と、希少コレクションの万華鏡ストーリー満載。1冊まるまる万華鏡の本です。!A5判、224ページ、定価3050円(税別)、郵送の場合、税、送料で別途490円必要になります。本屋さんには置いてありません。直接、日本万華鏡博物館へお申し込みください。